10年おきに「うどんのブーム」が訪れる、という話を聞いたことがある。もはや国民食のうどんにブームという表現がふさわしいのかどうかとも思うが、ブームと扱われている期間は、メディアで頻繁に取り上げられ、新しいお店も続々と誕生している。
このうどんと同じように、近年、定期的なブームを起こしているのが「からあげ」。しかも、ブームは冷めることなく一定の注目を集めながら、時に一気に加熱しているのが特徴だ。今がまさにその加熱期で、これに合わせるかのように、「うちで作るからあげがウマい!」(池田書店)が発売された。
タイトルからもわかるように、家庭でのからあげ作りをレクチャーする書籍である。「からあげには家庭の味がある」らしいのだが、私にはその記憶がない。
というのも母親に「からあげはやめて」とNGにしていたからだ。幼いころからからあげが苦手(理由は鶏を想像して抵抗があるからという、鶏肉嫌いによくあるパターン)で、小学校に入学した直後、全校生徒の集会で1年生を代表して自己紹介をすることになったとき、「嫌いな食べ物は鶏肉です」と宣言したほどだった。
そんな私が編集してよいものか……。ところが予備取材で、あるお店のからあげを食べた際、「あれっ、ウマい!」と純粋に思った。その感情もあって「なぜウマいのか」という答えを探すことが本作りのひとつの目的となった。
鶏肉に衣をつけて油で揚げたものが「からあげ」。単純な作り方だが、シンプルだからこそ、細かなこだわりが生きる。本書では、「部位」ごとのベストな作り方、衣の配合、油の選択と温度設定、下味のつけ方をとことん研究し、論理的に解説している。複数の料理家や、からあげを専門とする店や人たちの意見をもとにからあげの懐を探った。
お店に行けばウマいからあげはいくらでも手に入る。ただ食は好みがあるもの。自分に合った、家族に合ったからあげにするには、お店とは違う作り方が必要だった。もっともわかりやすいのが油の温度設定だ。業務用のフライヤーは、温度設定が精密で、いつでも同じ環境で揚げられる。しかし、家庭用の揚げ物鍋はサイズが小さいので、肉を入れると一気に温度が下がり、からあげ特有のカリッとした食感を生み出せない。そこで工夫したのが、からあげのサイズを小ぶりにし、少量ずつ揚げること。これだけで仕上がりに雲泥の差が出る。
部位ごとの特徴を感じられるのもオリジナルからあげの魅力で、個人的には「ぼんじり」が気に入った。お店で扱っているところは少ないだろう。あっさりした味わいながら、かむごとに肉汁があふれ出てうま味がどんどん増す。鶏肉嫌いだった私がこんな表現をするとは思わなかった。
さらにタレをトッピングしたり、料理にアレンジしたりと、からあげが食卓で脚光を浴びるアイデアもたくさん紹介している。本書のキャッチコピーである「カリッとジューシー」の「ジューシー 」は「104」と表記し、実に104のからあげを取り上げた。3日に1日の割合で1年近くの献立がかぶることなく作れるわけだ。
一冊の本を制作する際、たいていの本は一人の監修者に協力してもらう。本書の場合はあえて誰か一人に監修をお願いするのではなく、複数の人に協力してもらった。からあげをあらゆる角度から追求したかったからだ。からあげ業界や料理の世界で活躍されている方ばかりで、それぞれにからあげに対する思い、愛情があった。
世界中にからあげの魅力を発信したい
病とたたかいながらも、からあげで天下を取りたい
斬新な味つけでからあげの概念を変えたい
家庭で楽しく作れるレシピを届けたい
忙しい人がすぐに作れる商品を開発したい
本の制作で取材や撮影をする際、全員が楽しそうだった。ジュージューと音を立てながら揚がっていく肉が踊っているようにも見えた。本書を作り終えて三十数年前に戻れるなら、小学校の校長先生に伝えたい。
「僕はからあげが食べられるようになりました」
母親にも伝えたい。
「今晩のおかず、からあげにしてよ」
さてこの本がみなさんの食生活をどう変えるのか、想像するだけで楽しみだ。この本のレシピそのままに作っていただいてもよいし、独自のアレンジを加えていただいてもよい。みなさんの家庭で、からあげが永遠のブームになりますように。