10月の休日、出光美術館へ出かけた。
江戸時代の禅の僧侶・仙厓の、生涯にわたって描かれた禅画を一気に見られる嬉しい機会。
「仙厓のすべて」と題した展覧会だ。
仙厓といえば真っ先に思い浮かべるのが「○△□」の書だが、
今回の展示では「○△□」も含め、代表的な作品が数多く紹介されていた。
とくに興味をひいたのが、禅の教えを庶民への人生訓として描いた禅画。
皮肉と笑いを湛えた言葉に、おおらかで大胆な絵の組み合わせ。
現代にも通じるキャッチコピー+イラストの表現だ。
そのゆるふわな印象でユーモアに溢れた独特の表現は、大変わかりやすく、
身に覚えのあるような身近なメッセージとして心に響く。
絵を見ていて気がついたことがある。
仙厓の禅画は、伝える相手「庶民」を明確にしていること。
やさしくわかりやすい言葉、目を引くおもしろい絵。
難しい禅の教えが、仙厓の解釈と表現でこんなにも自由な世界に描かれていることに驚く。
つまり、私たちが本を制作するときと同じだ。
読者を意識し、その読者に合わせた表現に心くばる。仙厓さんは優れた編集者でもあったようだ。
井上ひさしさんに次のような言葉がある。
「難しいことをやさしく
やさしいことを深く
深いことをおもしろく
おもしろいことを真面目に
真面目なことを愉快に
愉快なことをいっそう愉快に」
仙厓さんの禅画に込めた思いをこの言葉とともに感じながら、
本の制作における基本の大事さを改めて思い知る。
そしてまた、仙厓さんが描く墨一色の、表現の多様性と存在感も鮮烈な印象として心に残った。
「私も何か書いてみようかなあ」 気まぐれに思った。
筆を持つのは何年ぶりだろう。
「つれづれなるままに〜、硯に向かひて〜」などと少し気取って文字を書く。
目的もなく、思いついたまま筆を動かすので気楽なものだ。
いろいろと心に浮かんだ文字を書き、最後は「○」と書いた。
間違っても禅の言うところの一円相ではない。私のはただの丸。
未だコロナが続き、人と接する機会が制約される中で、なんとか無事に一年を終えられそうだ。
もちろん皆のおかげ。なので、今年一年を○×の「○」で表わした。
「ダンクグループのみなさん、この一年、お疲れさまでした。ありがとうございました」