『源氏物語』を題材にした大河ドラマ、『光る君へ』が絶賛放送中のいま。
きらびやかな十二単をはじめとした平安文化の数々に、ドラマの視聴者として楽しむだけでなく、描き手として創作意欲が沸き立つ人々もいるでしょう。
そこで今回、制作したのがイラストレーターやクリエイターのための平安装束の描き方です。
みなさんは平安時代の服装は「着物」ではなく、「平安装束」と呼ばれていることを知っていますか?
「和装」というくくりでまとめられることもありますが、私たちが知っている「着物」は江戸時代の文化がベースとなっており、平安時代の「装束」とは衿や袖の形、帯の有無などがまったく違うものとなっています。
しかし、いざ興味を持って調べても、江戸時代の資料本は非常にたくさんあるのに対して、平安時代の資料本は少なく、とくに手軽に調べられるようなライトな本あまりありません。
というのも、平安時代はあまりに古いため装束がほとんど現存しておらず、文章ベースの記録が頼りで研究者によって解釈が異なり、また学術的な研究もあまり進んでいない、非常に謎の多い時代なのです。資料本を読んでも、著者によって書いていることが違う! ということも珍しくありません。
現代でも皇室の神事や儀式などで装束が着用されていますが、衿の形や組み方、腰紐などの細部が平安時代当時のものとは異なります。
「きちんと源氏物語の時代の平安装束が描きたい」
「でも、資料を探すのが難しい 」
本書はこうした悩みを解決するために、平安時代のスペシャリストを監修にして、最新の研究によって、より当時の姿に近い装束を復元し、クリエイターが「最新の平安時代の服装」を描くためにまとめた実技書です。
約400年も長きに亘って続い平安時代は、装束の形も平安初期と末期では大きく変わっています。『源氏物語』『枕草子』などに描かれた平安貴族が活躍する黄金期は平安中期と呼ばれ、本書ではおもにこの時代にフォーカスをあてて解説しています。
編集制作をしながら学び、驚いたのは、今までのマンガやドラマなどで親しんでいた平安装束は実は平安後期〜室町時代にかけてのもので、平安中期とは異なるものが多かったことです。
平安装束は平安初期に生まれ、貴族黄金期の平安中期に大きく発展し、貴族文化が終わりを迎える平安後期に、武士の文化なども取り入れて、有職故実(朝廷や公家、武家の儀礼や作法)などの現在に残る形になりました。
そのため後期のもののほうが資料が残っており、参考にしやすかったのかもしれません。
さらに、本書の大きなポイントとして、装束の構造だけでなく、「どのような人が、どのようなシチュエーションで着たのか」というところにまで言及しています。
平安時代は性別や身分、TPOによって装束を使い分けており、それぞれの衣の意味や工夫、さらには調達や着合わせの苦労もありました。
また、あまり知られていない当時の装束の着こなしやしぐさなども紹介しています。
源氏物語研究に特化した著者ならではの解説文は、ただのイラストの技法書ではなく、平安時代に興味のある人のための読み物としても魅力的な一冊です。